日本が世界で先頭を走っているものはいろいろあるが、「ケイタイ文化」もそうだろう。なにせ、日本は世界で先頭を切って携帯電話を「PDA仕様」とし、インターネット・メールを小さな端末の上に乗せた。今日本人が使っている携帯電話で、メール機能のないものは少数派になった。若者が使うケイタイはほぼすべて i mode などの情報処理、メール対応機能付きである。
ではそのケイタイは、メディア媒体として今の使用者にどのような心模様を生じさせているのか、というのを調べてみた。電車の中を見ても、街角の人々を見ても、ケイタイは日本人の行動パターンの一部を変えているように見える。今回調査の対象としたのは、筆者が非常勤講師をしている大妻女子大学の1~2年生。概ね年齢は18~20才である。まずその調査項目を。
調査から出てきた傾向、兆候は、
「不所持不安症候群」などなど。それを示す調査結果は以下の通りでした。
「寝るときも一緒」
「ゲット低年齢化」
「メール端末化」
「情報端末機能の未利用」
「暇つぶしツール化」
「健全な懸念の保持」
可能性=世界が広がる、見ず知らずの人と気軽に知り合える(多数)、人の居場所が分かる、人命救助に繋がる、情報ゲット(多数)、新聞が読める、小説が読める、財布を持たなくて良い、店や商品の予約、乗り換え案内、お店の閉店時間、家に来たメールのチェック・返信、金融取引、将来のケイタイを使った自動精算、テレビが見れるようになる(多数)、自分がどこにいるのかナビのように見られる、PCの子機、PCより手軽危険性=命に関わる危険が潜む、簡単にお金を借りてしまう、迷惑メールなどから出会い系サイトにはまる(多数)、事件に巻き込まれる、詐欺行為、脅迫文、金融取引でお金が使われる、個人情報の流出・漏洩(多数)、心臓ペースメーカーへの悪影響(多数)、ケイタイを巡る喧嘩、盗撮や迷惑メール(多数)、プライバシー侵害、ウィルス、ハッカー、電磁波、利便性に伴うリスク、どこにいるか分かってしまう、金融取引での0の打ち間違いなど、著作権との関係が曖昧、便利さに慣れた人々がケイタイを使えなくなる事態・パニック、頼りすぎて動かなくなる、忘れた日に落ち込む、頼りすぎ、ケイタイなしでは生きられなくなる
では何に使っているのか。圧倒的にメールの送受信です。一日に50通の送受信と答えた人が何人かいた。むろん少ない人もいたが、完全な「ゼロ」はゼロ。ゼロの日もあるという人はわずかに一人で、圧倒的に一日10通以上のメールを送受信していて、大部分の人は20通以上になっている。ということは、彼女らにとってケイタイは「携帯電話」ではなく、「携帯メール端末」になっているということである。
実は、数は少ないのですが暇なときに職場の仲間にも同じ調査紙を配って10数人に書いてもらった。「ケイタイがないと不安」などの比率は、それほど女子大生と変わるものではない。私もそうなのですが、日本人の多くは「不所持不安症候群」になっている。しかし面白かったのは、通話送受信の数とメール送受信数の差が、年齢が上がれば上がるほど縮小して、上になるほどメール送受信数がゼロに近づくと言うことです。つまり、ケイタイをメールで使うかどうかが「若いかどうか」の分岐点。
逆の面を見ると、年齢や社会経験、それにニーズの差があると思うのですが、18~20才の彼女らのケイタイを通じた情報ゲット能力は低い。電車、レストラン、本、野球結果などの限定情報に限られている。ケイタイで新聞を読んでいる人は、50人中わずかに一人だった。彼女らは紙としての新聞もほとんど読んでいないので、つまり我々が連想する「新聞」というものが、彼女らの生活には全く入っていないことになる。
実は、彼女らにだけ情報を提供してもらうのはフェアでないと思って、私のケイタイ利用実態も彼女らに渡した。それは以下の通りです。
「不所持不安症候群」は私の場合もその通りだとして、それ以外を言うと、筆者もケイタイを忘れて駅に到着したとすると、必ず家に取りに戻ります。平日はケイタイにいろいろな連絡が入るから絶対忘れられない。彼女らがケイタイ不所持だと不安なのに、家に忘れても取りに帰らない理由は、仕事がないという点もあると思う。ただし私は、寝るとき基本的にケイタイは枕元には置きません。うるさいから。ただし旅先で目覚ましに使うときは別です。彼女らの中にも、ケイタイが目覚まし代わりという人が少なからずいた。
- 圧倒的に情報端末として
株式指標のレベルや為替相場のチェック
フラッシュニュースや、主要ニュースのチェック(朝日新聞、読売新聞、日経新聞、ブルームバーグ、CNNなどのサイト)
大リーグ、プロ野球の結果や経過チェックに- 双方向通信手段として
電話 友人から、オフィスから、マスメディアから
メール メーリング・リストのメール、家族間メール、その他
リモートメール(自宅のPCに来たメールをチェックし、返信できるシステム)- 取引手段として
株式などの金融取引
店などへの決済
面白かったのは、「ケイタイを暇つぶしにしばしば使う」と答えた人が44人もいたこと。昼間の立っている人がいない電車などに乗ると、乗客の半分はケイタイを見ていたり、いじっていたり。必要でいじっている人もいるのでしょうが、暇つぶしが結構多いということです。「眠れないときにケイタイをいじる」という人もいた。
ケイタイのリスクについては、18~20才の彼女らがよく知っていることに安心しました。これは発見だった。
新しいメディア・ツールは、出現したときは常に軽視・軽蔑される。ラジオもテレビもそうだった。既存メディアに比べれば、胡散臭いからだ。しかし、時間の経過とともに新しいメディアは影響力を増す。
仮に彼女らが寝る時もケイタイを枕元に置いているとしたら(事実大部分がそうだった)、「ケイタイと一緒の時間は一日24時間」に限りなく接近する。この重要なメディア媒体が軽視されて良いわけはない。文化伝承媒体としても、販売媒体としても、コミュニケーション・ツールとしても。ケイタイ(もう電話とは呼びません)は、例えば5年後という直ぐ先の未来でも凄まじいツールになっているでしょう。
(ycaster 2003/06/06)