Essay

<収録後記(7月28日)―Cyberchat>

放映=7月28日(日曜日)テレビ東京朝9時から(日経サテライトニュース午後5時)

ゲスト=大平純市・サワコー・コーポレーション取締役社長

 皆「新しい分野で起業を」という。普通はそう思う。筆者もかなりの部分そう思っていた。しかし、日本では実は「もう満杯、もう成熟」と思っている分野にも、新たな起業のチャンスがあるかも知れない。

 ゲストである大平淳市さんが社長を務める「サワコー・コーポレーション」は、ハイテクでもバイオ企業でもなく賃貸マンション建設中心の名古屋の建設会社である。会社を興したのは平成2年。それからわずか5年で日本の店頭株市場に株式を公開。それが95年。「5年で店頭公開」というのは、伊藤忠の関連会社であるイノテック以来のスピード公開。独立系では最短スピードだという。

 それから1年もたたない96年、つまり今年5月に今度はアメリカのNASDAQに株式公開した。ADRでナショナル・マーケットに。1977年のイトーヨーカドー以来約20ぶりである。

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  同社躍進の秘密はまずその徹底したコスト引き下げ努力。賃貸マンションの日本の平均建設コストは3.3平方メートル(坪)当たり60万円程度。しかし、サワコーはこれを28万円にまで引き下げたという。大平社長は、「車と全く同じ考えをしました」と説明。つまり、車種が違っても共通化できるところは徹底して共通化する、という世界の自動車メーカーの最新戦略である。同社長はそれをドメだった「建設業界」に持ち込んだ。

 無論消費者は、「家」のようなものには「個性」を求める。団地のような規格住宅にはうんざりしているでしょうから。そこで同社は、「オプション」を設けた。このオプションを色々付けても、仕上がり価格は全国平均を大きく下回るという。規格化効果が大きいと言うことでしょう。サワコーはまた、「建設」を総合的に考えようとする。まず土地の有効活用を望むオーナーのニーズをくみ取り、完成後の収益性まで含めて企画・設計でコスト中心の見積書を作成。無論、CADシステムを導入して、部材の規格化・統一化も進める。この結果は、創業6年で1万戸以上のマンションを施工、120億円の年間売上高を達成した。

 スピード株式公開の狙いについて大平社長は、「はやく無借金経営に移りたかったからだ」と説明。事実その通りになっている。それに続いての今年のNASDAQ公開については

  1. 社員の志気鼓舞
  2. 知名度向上
  3. 安い建設資材
  4. アメリカの建設業のノウハウ取得

 を同社は挙げている。(1)はそうでしょう。(2)は、予期せぬ受注につながったこともあるという。新聞も取り上げますから、一つまかせてみようという施工主も現れる。(3)と(4)が面白い。アメリカの安い建設資材、独特のノウハウが欲しいとも大平社長は言う。将来は米企業と提携したいとも。

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  日本では「成熟市場」といっても、実は「徹底した競争の後」の市場ではないことが多い。企業から見ての制度メリットと制度コストが共存していて、その「制度」に守られた市場が多い。「しきたり」「序列」「官との関係」「企業間の上下関係」。これらは、しばしば企業にとってはメリットであり、コストである。一つ明らかなのは、「消費者」にとっては、「コスト増要因」だということだ。

 サワコー・コーポレーションは、この点を突いた営業をしていると思われる。だから大平社長は温厚な印象を与えるが、会社を興してしばらくは「きちがい」と言われたという。しかし曲げずにここまで来て、いま全国展開を狙う。これは筆者の感だが、「官業」(郵便、電報などなど)の回りには大きなチャンスがあるかも知れない。「コスト」の固まりになっているからだ。

 大平社長が目指すは、「建設業界のソニー」だという。まだ同社長は、子会社をどしどし作って、若手を社長にしたいという。社内アントレプレナーの育成を狙うと。

 「ドメ」業界から出たNASDAQ企業の今後を見守りたい。
                            →VRMコーナー参照

                            (ycaster 96/07/28)