Essay

「物価指数に与える品質変化の影響──ヘドニック・アプローチの適用による品質調整済パソコン物価指数の推計──」

(『金融研究』第13巻第4号、日本銀行金融研究所、1994年12月、所収)

 物価指数の「計測誤差」(measurement error)ないし「インフレ・バイアス」という問題については、このところ様々な議論が繰り広げられ、世間の注目が集まっている。特に、「価格破壊」と呼ばれる動きが広範化している中で、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合ベース)は依然として緩やかながら上昇を続けていたことから、消費者物価はデフレーションの実態を適切に反映していないのではないかといった疑問が提起されている。

 物価指数の計測誤は、調査サンプルのカバレッジ、調査店舗の構成、調査銘柄の品質変化等、様々な要因が関係している。本稿では、その中の品質変化の影響に着目し、「ヘドニック・アプローチ」と呼ばれる手法を利用して、価格変化に含まれる品質向上分の調整を試みる。具体的には、技術進歩が極めて速く、品質向上が著しいパソコンについて、わが国のディスカウント市場で観察される実勢価格を用い、パソコンのヘドニック関数を推計する。

 これによると、ディスカウント市場におけるパソコンの品質調整済価格指数は、1990年以降、年率平均で20%から25%のピッチで下落している。こうしたパソコンの品質向上分を物価指数に織り込むと、消費者物価指数・耐久消費財では年率約0.2%ポイント、同・総合では約0.01%ポイントの押し下げ効果が働くことになる。