Essay

「乗用車価格の変動と品質変化──ヘドニック・アプローチによる品質変化の計測とCPIへの影響──」

(『金融研究』第14巻第3号、日本銀行金融研究所、1995年9月、所収)

 本稿では、わが国の乗用車市場にヘドニック・アプローチを適用することにより、品質変化が乗用車価格に与えている影響について、三つの実証結果を提示している。

 第一に、1990年から1994年までのサンプルによる推計結果からは、乗用車の品質調整済み物価指数が、年率-0.3%前後のピッチで低下していることが示される。この間、CPIは、消費税率変更の影響を控除すると、年率0.6%のペースで上昇しており、乗用車のウエイトが耐久消費財の中で最も大きいこともあって、対耐久消費財では年率0.2%程度、対総合で同じく0.01%程度の上方バイアスをもたらしている計算となる。従って、乗用車には、パソコンほど劇的な品質向上が生じている訳ではないが、ウエイトが大きいため、CPI全体に無視し得ない影響を及ぼすことがわかる。

 第二に、収集したサンプルを乗用車のサイズ、スタイル等の属性にヘドニック物価指数を推計すると、属性間で物価指数変動に有意な差があることが示される。こうした属性別の価格変動の相違は、価格調査銘柄数が少ないこと、普通乗用車が含まれていないこと等の乗用車CPIの持つ問題点が、物価指数の計測誤差を増幅している可能性を示唆している。特に、近年では、普通乗用車の税率引き下げを受けた車体やエンジンの大型化、ワゴン、オフロード車といったRV車の流行といったかたちで、乗用車サイズ・スタイルの多様化が進展しているだけに、乗用車CPIの問題点はCPIのバイアスを拡大させている可能性が高い。

 第三に、推計したヘドニック関数を利用して、個別調査銘柄の入れ替えに伴う品質調整のシミュレーションを行った。これによると、現行CPIの品質調整手法だけでは、銘柄変更時に品質変化の影響を必ずしも適切に評価できない可能性のあることが示され、ヘドニック・アプローチ導入を柱とする品質調整手法拡充の必要性が確認される。