Essay

<TMF収録後記(5月26日)-CYBERCHAT>

(物知り博士)

 これほどに良く情報を集め、ものを知っている人を私は知りません。長谷川慶太郎。ゲストにも色々なタイプの人がいます。土曜日午後7時から30~40分が打ち合わせ時間になるのですが、この間のゲストの行動を分類するならば

(1)「もの静か」タイプ

(2)「時たま冗談言い」タイプ

(3)「しゃべり続け」タイプ

 正直言って、(2)が一番スタッフにとっては良い。「慣れている」という安心感が
持てますし、番組がテンポの良いものになるであろうことを予感させる。時たまだから、スタッフは収録の手順を考え、せりふを考え、声を整え、頭を集中する時間的余裕がある。
  ちょっと心配になるのは、(1)です。このタイプは、いざ番組が始まった時に「しっかりしゃべってくれるだろうか」という点で、また「この人は緊張しているのではないか」と心配になる点で、ちょい不安になる。準備には集中できるものの....。
  (3) のタイプは、正直言ってちょっとうっとうしい。ゲストですか
ら、失礼のないようにしなければならない。ですから、ゲストが喋る時には、会話に乗らねばならない。しかし、番組の組立を頭の中で反復し、質問を考え、言葉を選び、いくつかの冗談や柔ら種を用意し、声を整え....ということがしばしば滞る。あまり打ち合わせの段階で喋られると、本番の意外性(特に出演者の)がなくなってしまうような気もする。
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 長谷川さんはスタッフを休ませてくれません。口から知識があふれ出す。「知ってますか....あれはこうなんです....」「伊藤さんはどう思われます....」。打ち合わせの最中ずっとこの状態が続く。山形などは必要に応じて、自分に集中して、ニュースを練習読みし、時間をはかりとマイペースなのですが、私はなるべくゲストの話に耳を傾けることにしている。何を引き出せばおもしろいかの手がかりになるからです。しかし、頭の中では「番組の手順を考えねば.....」という気持ちも正直言ってある。

 長谷川さんと面と向かってしゃべるとその硬軟、大枠・子細を合わせた知識の幅にしばしば圧倒されます。とにかくよく情報が入っている。そして、それを頭の整理棚に置いていて、必要に応じて出してきている。感心します。私だってそれほど情報に疎い人間ではないのですが....

 なぜか。いくつかの理由はわかっています。

(1)英字紙に限らず、ドイツの新聞まで読み情報をより国際・的に集めている
(2)有名な評論家になったが故に、悪く言われたくない向きが事前に情報を提供し
てくる
(3)幅広い人脈があり、それらの人々と情報を交流している
(4)広い情報を持つ向きから、ファックスなどで情報が入ってくるルートを確立し
    ている

 経済が国際化した今、情報を日本の新聞からしか得られなければ「delayed」になってしまうことは明確です。ですから長谷川さんは去年最初に「東京マーケット・フォーカス」(テレビ東京・日曜朝9時~)にでられた時、私が「(あなたは日本人に)ゴルフ、麻雀、カラオケをやるなと言っているが、視聴者にこれを“やれ”と推薦できるものはないのか」と聞いたとき、即座に「英語の新聞を読め」とおっしゃった。英語のみならず、ドイツの新聞まで読んでいるところが凄い。これが(1)です。(2)は役所がとる戦略です。役所の方が説明に回る。「これはこうです」「あれはこうです」。
  内幸町の日本記者クラブに行くと、有名な評論家や大学の先生を前に、役所の人が説明をしている場面を目撃することがある。特に委員会の委員などをしている場合にはこのケースが多い。どこの国でも統計的な数字を一番押さえているのは役所ですから。これが始まると、無論「操作される危険性」は残りますが、役所の問題意識の在処はわかる。数字も入ってくる。
  (3)は、恐らくふつうの人より人脈深く、情報交換の頻度も高いのでしょう。情報交換の相手もレベルが高い。この高さが、高い確度の情報の集まりにつながっている。情報を得るもっとも近道は、相手に情報を与えることで、人間は誰でも負けず嫌いですから、与えられれば与えられるほど、「私だって知ってますよ」とない脳味噌と情報を総動員して相手の情報に対応する情報を口にアップしようとする。これは、洋の東西を問わず多くの人がやっている方法です。

 長谷川さん曰く、「もう私の家にはファックスが凄いんですよ.....」。この言
葉から想像できることは、長谷川家のファックスには世界中から情報が入っているということです。日本の証券会社、アメリカのインベストメント・バンク、イギリスのマーチャント・バンク。私の経験で言えば、斬新な世界観はしばしばアメリカのインベストメント・バンクのアナリストから提供される。
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  それでも、あの頭の整理棚の数の多さと深さには感心します。「東京マーケット・フォーカス」に複数回出たゲストは多くはありませんが、長谷川さんは「複数回」のトップを走っている。まだ得るものが多い印象です。

                                     (ycaster 96/05/26)