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2014
11/14
Fri

原油相場の動きは、とっても面白い

day by day
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 (13:45)国際政治を考える上で今一番面白いファクターは「原油相場」です。既にしばしば報じられているのですが、WTI先物の少し長目の各種チャートを見ても分かる通り、最近の原油相場の下げは急です。

 原油相場急落の最大の原因は何と言っても需要の減退です。世界経済全体を見ると、資源をがぶ飲みしていた中国の景気が減速し、ヨーロッパの景気も良くない。日本も良くない。途上国の成長率も落ちてきている。

 世界で一番化石燃料を使っているアメリカは、オイルシェールの生産が盛り上がってきて、かなりの部分の燃料を国内産でまかなえる。となれば、世界的な原油需要は当然落ちるという構造になっている。

 しかし私はそれに加えて、その関係がつまびらかではない二つの政治的要因がからんでいて、それが面白いと見る。それは

  • 今まで大きな需要国として存在したアメリカでのオイル生産急増を「好ましいこと」とは思わないサウジアラビアの王室の思惑

  • ウクライナ問題などで対立関係を深めているアメリカが、ロシアを追い詰める最大の武器と考えているのは恐らく「石油価格」、そしてその「下落「だと思われる

  • もっと端的に言えば、世界有数の資源輸出国であり、その輸出代金で国家予算をまかなっているロシアは、世界的な石油価格の下落で徐々にクビを絞められると考えられる

 ということです。当然ながら「2」と「3」は繋がっていて、この関係ははっきりしている。私はこの点においてロシアをあまり追い込みすぎるとプーチンのロシアは暴発する危険性があると思っているのですが、ロシアも天然ガスの輸出で中国に助けを求めて長期契約を結ぶなど、今のところは「アメリカの牽制に対するカウンターパンチ」を打っている状況。

 問題なのは、サウジの対米思惑とアメリカの対ロ思惑がどういう形で整合性がとれるのか、綺麗な放物線を描くのかがよく見えない点。一般的にはアメリカのオイルシェール生産の採算分岐点は「バレル70ドル台ではないか」との見方が強い。

 例えば最近のロイター電は原油価格80ドル割れなら米シェールオイルの3分の1が採算割れ=調査と伝えている。これだと「米オイルシェール産業が耐えられるのは今が限界」(今のWTIの原油価格は70ドル台のローなので)ということになる。

 一方で、この原油価格ではロシアは"超"苦しい。今朝の毎日新聞には「産油国、社会不安の恐れーー原油安続けた財政破綻も」という記事がある。サウジの王制も盤石ではないし、当然その他の産油国も困ると指摘した後に、

 「ロシアは連邦歳入の45%を石油関連の税収が占め、15~17年度予算は原油価格の前提を平均バレル100ドルに置いている」

 と書いている。仮に今の原油相場がバレル70ドルで、それが続くとすればロシアの石油・関連資源輸出収入はあるべき水準から3割方減るということになる。つまりそれは連邦歳入が全体で15%減るということを意味する。これはロシアにとって大打撃だ。

 昔はサウジとアメリカは蜜月だった。しかし今は極めて微妙である。他のアラブ諸国に対する姿勢を勘案すると、アメリカがサウジの専制的王制を好ましく思っていないことは確かだし、実際にいろいろな問題で最近サウジとアメリカは衝突している。

 だからサウジがアメリカに嫌がらせをしてもおかしくない。脈略は良く分からないが、先にサウジはアメリカ向けだけの石油価格を引き下げた。世界には「サウジはアメリカのオイルシェール産業に打撃を与えようとしている」との解説がある。

 しかしサウジにとって痛し痒しなのは、最後の最後にもしかしたらサウジ王制の安定を望んでくれるのはアメリカかもしれない、という点だ。だから「本気ではサウジはアメリカと事を構えようとしてはいない」とも考えられる。

 一方で、原油価格の下落はアメリカ経済、国民生活にとっては良い、というのは間違いない。鉄道が発達していない、つまり車社会のアメリカでは「ガソリン安」は「消費者の購買意欲の促進」に繋がる。

 だからアメリカは、「ロシアを利するほど石油価格は上昇して欲しくない。それがたとえオイルシェール産業に有利であっても」と考える一方で、「原油価格がある程度安いことはプーチンのロシアにとって打撃になって好ましいし、有効な景気対策とも言える」というスタンスだと思われる。

 だからサウジの対米石油輸出価格引き下げは、実は「アメリカの隠れたニーズを満たす措置」のようにも見える。ま、石油業界は「シェール潰し」と怒るでしょうが、政府は「許容範囲」と考えているのかもしれない。

 今の世界でアメリカが一番「おもしろくない」と考えている国は、まあロシアでしょう。次が中国。APECやG20の席では、プーチンや習近平と言葉を交わし、交渉や会談を続けているオバマ大統領。しかしその裏では実に多様な駆け引きが展開しているはずだ。

 急落を続ける石油価格は、明らかに「国際政治ファクター」であり、しばらくは極めて興味深い存在であり続けそうだ。

12:45
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