(08:45)自分が見たことがない作品が賞を取るとやはり見たくなる。「どんなんだろう」「何が受賞の決め手か」と思って。
Slumdog Millionaire(アカデミー作品賞その他)もそうした作品だったので、試写会の券が来て直ぐに行ってきました。金曜日の夕方から六本木のミッドダウンで。
見てまず思ったのは、「この作品はある意味で他の数々の候補作品の中で突出、傑出していたに違いない。審査員の心に強いインパクトを与えたはずだ」というものです。ムンバイのスラムで実際に起きていたであろう数々の凄まじい光景は、アメリカにはない。
ヒンズーとイスラムの対立、イスラム教徒に対するインド社会全体に残る強い侮蔑、しばしば発生する襲撃事件、組織的な物貰いの子供達の世界とそれを束ねる悪しき大人達、平気にあちこちで進行する人身売買。私のようにムンバイのスラムを短時間見たことがある人間にとっても衝撃です。そこからこの映画は始まる。そして主人公はそこを運もあり、知恵もあり生き抜くが、それでも「destiny」を最後まで信じる。
この映画にはハリウッド的デジャブーがない。映画の運びも、風景も、そして人間関係もある意味で非常に新鮮だし、インドという国が良くも悪くもさらけ出される。クイズと主人公のジャマールの人生が奇しくも重なり合うのは映画的な作りだとしても、そのプロセスが実に良くできているのだ。
「この映画には謎解きの楽しみがあるな.....」と見ながらずっと思っていました。主人公の人生の中に謎解きの理由が入っている。そして、世界の多くの国で行われているミリオネアの番組が持つスリリングな空気をこの映画はそのまま引き継いでいる。それにしても数回出てくる「destiny」という単語が効果的、かつ印象的です。それがこの映画を綺麗にしている。
何と言っても素晴らしいのはエンディングです。多分審査員達に「これしかないな。今年は」と思わせたのは、最後の数分のエンディングでしょう。ただ単に素晴らしいだけではなく、インドテーストで新鮮なんですな。しかもスリラーのように、または北野監督作の座頭市のように盛り上がる。
私はベンジャミン・バトンの方が作品としては優れていると思いました。しかし、スラムドッグの方が圧倒的に面白いし、新奇性がある。前者がCGを多用せざるを得なかったのに対して、スラムドッグは生の人間を撮り続けているようにも見える。まあこっちに軍配が上がったのは仕方がないでしょう。
それにしても、あの最初のぽちゃっと落ちるシーンがずっと印象として残る映画で、これはある意味で従来のアカデミー賞の受賞作品の範疇を超えている。あの一途さがいい。この映画はその一途さの「destiny」で賞を取ったのだと思う。