日々のライブな情報ページ

2020
02/12
Wed

「臭い」を主役に引き上げた映画→「パラサイト 半地下の家族」

day by day
EOF; } ?>

 この映画を見ながら思い出していたのは、イギリスの映画監督ケン・ローチが「万引き家族」の監督・是枝さんとのテレビの対談番組で語っていた言葉でした。

  「貧困は、実にいろいろなところに表れる。着ているもの、その人の態度、言葉のちょっとした違い、肌の色艶、そして臭い。なので私は貧困がテーマの映画では俳優は使わない。現実に貧しい生活を送っている人を登場させる。そうでないと現実味がない。あなたは万引き家族を撮影するとき、どうしましたか....」

  概ねそういう発言だった。是枝監督はちょっと逡巡して選別の時に考えて選んだと答えていたが、同じ言葉は今年のアカデミーで作品賞、監督賞など4部門で栄冠を勝ち取った韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(http://www.parasite-mv.jp)のポン・ジュノ監督に投げられても面白いと思った。なぜなら、韓国の俳優はあまりよく知らないが、パラサイト家族の父親を演じたのは私が知る限り韓国ではかなり有名な俳優だからだ。

 しかし色々努力の跡は見えた。肌の色つやをやや酒やけっぽく斑に赤くし、斑点が目立つ形にメークしていた。韓国の言葉のニュアンスは私には分からないが、やはり少し工夫したのだと思う。

 しかしこの映画で一番キーとなったのは「臭い」です。「貧困の中で半地下の家に住むが故のこの家族の臭い」。この映画では半地下の家の外で、酔っ払いが立ち○○○○をするシーンが数回出てくる。それらや、折り重なった様々なモノの臭いが結合して出来る独特の臭い。

 六本木ヒルズのスクリーン7は三次元だが、「臭い」はしなかった。さすがに。想像するしかない。今は相当違ってきたが、ソウル・オリンピックの少し後までは、韓国は都市でも独特の臭いがする街だった。映画でそれを想像するしかない。

 想像するしかないが、この映画で「臭い」は決定的な役割を果たす。映画の大きな筋書きを作っているといっても良い。観客が感じられない臭いを、映画の主役の一つに引き上げた。希有な映画です。

 最初にパラサイト家族のインチキに気がつくのは、金持ち一家の末の、ちょっと変わった息子です。「ともに最近雇った運転手(夫)と家政婦(妻)の臭いが同じだ....」と言う。この息子の両親は気がつかない。そして「臭い」は、惨劇にまで発展する。金持ち一家の夫が示す臭いへの嫌悪。それが引き金に。

 まだ見ていない人が多いだろうから、これ以上は書きません。さすがに「作品」「監督」「長編映画」「脚本」の4賞を受賞するに値する映画だと私は思った。細かい事を言えば、いくらでも指摘できることはある。パラサイト一家が次々と雇われていくプロセスもどうかと思う。気がつかない方がおかしいが....

  しかし韓国社会の格差を描いた割には、それほど重苦しい感じはしない。「韓国の人はこの映画を誇れるだろうか?」なんていう野暮な疑問は内にしまうことにする。テンポ良く展開し、楽しめる。

  脚本も監督もうまいし、俳優もそれなりきの役割を果たしている。しかし同時に思ったのは、この映画にアメリカの賞選定委員達も一票を投じるほど、この映画が取り上げている社会的格差が世界共通の問題になったという事実が重いということだ。筋書きは結構骨太だ。

  お勧めです。{了}

15:17
EOF; } ?>
ページの先頭へ
twitter
伊藤洋一公式Twitterアカウント

サーチ


カテゴリー


最新の記事

カレンダー

キーワード